01 | そもそもフリーアドレスとは
フリーアドレスとは?
導入手段と成功するコツを徹底解説作成日:2024.3.12更新日:
「フリーアドレスという言葉をよく聞くが自社で導入したほうがよいのか?」また、「フリーアドレスの効果については知っているがどのように導入をしたらよいだろうか?」など、フリーアドレスという働き方について疑問を抱えている方は多いのではないでしょうか。
当記事では、フリーアドレスの導入方法、またフリーアドレスが向いている企業・向いていない企業についても触れながら、フリーアドレスというオフィスの仕組みをご紹介します。当記事がフリーアドレスを検討している方の一助になりますと幸いです。
コラムの目次
02 | フリーアドレスの種類
03 | フリーアドレスのメリット
04 | フリーアドレスのデメリット
06 | フリーアドレスの導入手順について
07 | フリーアドレスの導入事例
08 | フリーアドレス導入が失敗する理由
09 | フリーアドレスの成功のコツ
10 | フリーアドレスに関するまとめ
11 | フリーアドレスに関するよくある質問
そもそもフリーアドレス
とは
フリーアドレスという単語をご存知の方は多いかと思いますが、フリーアドレスとはどのような意味でしょうか。
・フリーアドレスとは、固定の席をもたずに、各々が事務所内の好きなスペースにて仕事をするワークスタイルのことです。
まるで図書館の閲覧席のように、空いている席を自由に選ぶことができます。
従来であれば、デスクトップPCや固定電話などの利用があるため、基本的には、自席で業務を行わざるを得ませんでした。しかし、現在ではデジタルシフトが進み、1人1台のノートPCやスマートフォンが支給される企業がほとんどではないでしょうか。
これにより、固定座席を設けず、自由に座席を選択できるフリーアドレスというワークスタイルが普及するようになりました。
フリーアドレスを最初に取り入れた企業
フリーアドレスと聞くと、海外から入ってきた考えだろうかと思うかもしれません。しかし、フリーアドレスを最初に取り入れたのは、日本の「清水建設・技術研究所」であるとされています。
当初、清水建設でフリーアドレスが考案された背景には、日本のオフィス面積の小ささがありました。
オフィス面積は、日本では1人あたり2~3坪で設定されていることがほとんどです。これは、欧米諸国のオフィスと比較した際に、小さい傾向にあります。
せめて日中不在者がいるときに限っては、他者の机を利用することで、実質の1人当たりのスペースを広げようというのがそもそものフリーアドレスの企みだったとのこと。
しかし、現在のフリーアドレスというと、やや当初の目的とは異なったものになっていると思われます。
フリーアドレスの目的
では、現在のフリーアドレスは、どのような効果を求めて導入されているのでしょうか。よく謳われるものについて、いくつか挙げさせていただきます。
《フリーアドレスの目的》
・座席数の削減
・部署をまたいでのコミュニケーションの活性化
・ABWを意識したワークスタイルの導入
座席数の削減
固定席の場合、従業員数のデスクを準備する必要があります。一方で、フリーアドレスの場合、「そのときに事務所にいる人数分だけ用意」すればよいので、座席数の削減につながります。
例えば、会社全体で50名の従業員数を抱えているとしても、日中オフィスにいる人数は、その半分ほどかもしれません。この場合、フリーアドレスを導入している企業では、50席もの座席を用意する必要はなく、25席あれば十分ということになります。
座席数を削減できるということは賃料の削減につながります。 また、スペースを有効活用することで、会議室や集中ブースの設置など、より有益な設備に転用することもできるでしょう。空間を有効活用するために、フリーアドレスは有効なオフィスの使い方となります。
また、人事異動のたびにレイアウトを変更したり、採用のたびにデスクを増やしたりする必要がないので、組織再編などの流動性が高い企業にも適しています。
部署をまたいでのコミュニケーションの活性化
固定席の場合は、その多くが部署単位で集まって座っているのではないでしょうか。そのため、用がなければ部署をまたいで話をしにいくことは、ややハードルのあることでした。
一方で、フリーアドレスを導入した場合は、部署ごとに固まって座る必要性がなくなります。 日によって、別部署の人と偶然横の席になることや、役職のある人とも横の席になる可能性があるので、偶発的なコミュニケーションが生まれやすい状態を作ることができます。
ABWを意識したワークスタイルの導入
「ABW(エービーダブリュー)」とは、Activity Based Working(アクティビティ・ベースド・ワーキング)の略です。そのときどきの業務に合わせて、働く場所や時間を自由に選択する働き方を指します。
オフィスの執務室だけでなく、共用ラウンジや自宅など、その日の業務内容に合わせて自由に場所を選ぶことができます。業務に合う場所で働くことにより、生産性を高めることができるとされています。
こういったABWの働き方は、固定席との相性がよいとはいえません。 より自由に働ける環境を築きたいと考えている企業であれば、フリーアドレスを導入することで、さまざまな場所で作業をする社員の働き方に対応できるでしょう。
フリーアドレスが増加した背景
近年、フリーアドレスを採用する企業が増えたのは、なぜなのでしょうか。
従来は、固定電話やデスクトップPC、参考書籍など、仕事に必要なものが持ち運びにくく、固定席での作業が当たり前でした。しかし、薄型のノートPCやスマートフォン、無線LANの普及により、場所に縛られず働くことができるようになりました。
さらに、2020年以降、リモートワークを取り入れる企業の数が急激に増加。オフィスに出社しない人が増えたことで、さらにフレキシブルなオフィス運用が求められるようになり、フリーアドレスの需要も高まっています。
フリーアドレスの種類
フリーアドレスの代表的なレイアウトには、「完全フリーアドレス」と「グループアドレス」の2種類があります。
まず、完全フリーアドレスとは、オフィス全体から、自由に座席を選べる仕組みです。例えば、オフィスの執務室に30席の座席があれば、どの席を使っても構いません。あるいは、複数のフロアに自由に使える部屋があり、階を問わず好きな席を使えるような仕組みが、この「完全フリーアドレス」です。
一方で、グループアドレスとは、部署やチームごとに割り当てられた範囲の中で、好きな席を選べる仕組みです。
例えば、執務室内にパーテーションがあり、「右のエリアは営業部、左のエリアは内勤社員」といった具体的な分け方をすることができます。営業部の方は、右のエリアから好きな席を選んで使用します。
グループアドレスの長所は、チームごとにある程度まとまった座席で作業をするため、同じチームの人への質問や相談がしやすいことです。事業内容や働き方によって、どちらの仕組みが適しているかを判断してください。
フリーアドレスのメリット
経営者や人事部門の方々にとって、フリーアドレスの導入は社員の働き方を改善し、オフィスの運用を最適化する有効な手段といえます。
ここでは、フリーアドレスの代表的なメリットを3つご紹介します。
仕事の自由度が上がる
フリーアドレス制度導入のメリットは、その柔軟性によって働き方の自由度が増し、社員個々の働きやすさを向上させ、企業全体の生産性を高める点です。
この制度では、社員はその日の気分や状況に応じて、自由に座席を選んで最適な環境で仕事に取り組むことができます。例えば、担当業務の性質に応じて、集中力を高めるための静かな場所を選び、自分のペースで働くことができるのです。また、自分が集中しやすい座席を選んだり、必要な持ち物を持参したりすることで、自律的な働き方が実現されます。
特に、リモートワークを併用している企業であれば、「集中したいときや業務上必要な場合に出社する」といった、フレキシブルな働き方が可能になるでしょう。こういった自由な働き方は、仕事の生産性を上げるだけでなく、人材を募集する際に会社の魅力として訴求することもできます。
オフィスを有効活用できる
限られたオフィスの空間を有効活用するためにも、フリーアドレスは有効な手段となります。
例えば、頻繁に外出する社員の席が常に空いてしまうというような企業であれば、固定席を廃止することで、効率的なオフィス運用が可能になります。使われていなかった固定席のスペースを、休憩室や個室ブースなど、より効果の高い設備に転用することもできるでしょう。
また、組織変更や人数変更にも、柔軟な対応ができるのがフリーアドレスの強みです。メンバーの増減があったり、部署が再編されたりするたびに、デスクの数や座席表を調整する必要がなくなります。 人材やプロジェクトの流動性が高い企業であれば、よりフリーアドレスのメリットを実感できるのではないでしょうか。
部署間のコミュニケーションが活性化する
固定席で部署ごとに仕事をしている企業だと、他部署に声をかけることにハードルを感じるケースが少なくありません。心理的な距離だけでなく、他部署のデスクが遠い場合には、物理的な距離も障害となるでしょう。
しかし、フリーアドレスのオフィスであれば、ほかの部署の人と一緒に働くことも可能になります。部署横断のプロジェクトで、他部署の方と密に連携したいというようなケースでも、そのときどきで座席を変えることができます。そのプロジェクトを進めるときのみ、部署を越えて一緒に作業するということもできるのです。
また、「静かな個室席」「会話しやすいオープン席」など、業務内容に合わせて座席を選ぶことができるでしょう。チーム内のコミュニケーションを高めるために、会話の多いオープン席を選ぶことで、周囲を気にせずに情報共有や共同作業がスムーズに進めることができます。
フリーアドレスの
デメリット
現代ではフリーアドレスの導入が求められていますが、そのデメリットも理解し、適切な運用法を理解することが重要です。フリーアドレス制度には、課題となる面が一部存在します。
ここでは、フリーアドレスの3つのデメリットをご紹介します。
コミュニケーションの機会が減る
部署を越えたコミュニケーションがしやすくなるというメリットをもつフリーアドレス制度。しかし、フリーアドレスによって、逆にコミュニケーションが減ってしまうこともあります。
例えば、今まではチーム・部署ごとに固まって座っていたのに、各自で席を選ぶようになったことで、同僚との距離が生まれてしまうことも考えられます。
チームごとに同じエリアを使うルールを定めた「グループアドレス」の仕組みを活用するなど、運用ルールに工夫が必要です。
セキュリティ面で課題がある
また、セキュリティ上の問題も課題となります。
特に、大企業や人員の流動性が高い企業では、近くの座席にいる人が、本当に社内の人間なのかを判断できないかもしれません。セキュリティゲートやカードキーで入退室を管理したり、社員証の携行を義務付けたりと、社外の人間が入れないようにする必要があるでしょう。
管理が難しい
フリーアドレスでは、働く場所の自由度が上がる分、その管理が難しくなることも。
例えば、人員の管理については、「同僚や部下がどこにいるかわからない」といった事態も考えられます。フリーアドレスでも、部下の業務が円滑に進んでいるかをマネジメントするには、勤怠管理や進捗報告の仕組み作りが必要です。
人材育成の観点から、上司が部下の様子を近くで見ておきたいという場合もあります。そういったケースでは、定期的に面談の場を設けたり、グループアドレス制で近くの席に座ったりと、距離感を近づける方法を考えなくてはなりません。会社側が、人事制度の一環として、1on1の面談や目標管理の方法などを制度化するとよいでしょう。
また、従業員にかかる負担として、持ち物の管理が大変になるかもしれません。今までは、固定席に置いていた資料や小物などを、フリーアドレスの場合は自分で管理することになります。スペースに余裕があれば、私物用のロッカーを用意するなど、持ち物を会社に置ける仕組みを作るのもおすすめです。
フリーアドレスに向いている企業 /向いていない企業
ここまで読んでいただいた皆様は、自社ではフリーアドレスが有益に働くかどうか、気になっている方が多いのではないでしょうか。
魅力の多い仕組みに思えるフリーアドレスですが、実は企業によって、向き不向きがあります。
この章では、フリーアドレスが向いている企業と、向いていないと思われる企業の特徴をご説明します。あくまでも参考として、フリーアドレスの導入を検討する際にお役立ていただけますと幸いです。
フリーアドレスに向いている企業
まず、テレワークや営業社員の外勤により、従業員の全員が出社するとは限らない会社は、フリーアドレスに適しています。
必要な分だけの座席を用意することで、固定席の場合と比較して、座席数の削減につながるでしょう。
また、ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)で、働く場所や時間に縛られない自由な働き方を導入したいという会社にも、フリーアドレスは最適です。社員の判断で、出社か在宅化を選び、必要な場合のみ会社のデスクを使うことができます。
そして、部署をまたいでのコミュニケーションが多い企業にも、フリーアドレスはおすすめできます。固定席ではできない、「プロジェクトごとに座席を変えて関係者と作業する」ということができるのが、フリーアドレスの強みです。
《フリーアドレス導入に向いている企業》
・全員分の座席数を確保する必要がない会社
(テレワークや営業の外出が多い)
=座席数の削減
・働き方改革で生産性を向上させたい会社
=ABWを意識したワークスタイルの導入
・部署を越えたプロジェクトが多い会社
=部署をまたいでのコミュニケーションの活性化
フリーアドレスに向いていない企業
フリーアドレスを導入するには、ノートPCやスマートフォンを使って、固定席に縛られずに仕事ができる環境が必要です。ですから、紙ベースの資料を使わなくては仕事ができないような職種や、必要な道具が多い作業の場合は、身軽さが求められるフリーアドレスには向かないといえるでしょう。
また、高い機密性の求められる業務も、多くの人が出入りするフリーアドレスのオフィスには向きません。顧客のクレジットカード番号の登録など、重要な個人情報を取り扱う職種の場合は、オープンな座席を使うフリーアドレスの仕組みは避けるべきでしょう。
以上、フリーアドレスに向いていない企業の特徴を、数点ご紹介しました。しかし、これはあくまでも、参考でしかありません。
導入に向かないと考えられる企業であっても、工夫を重ね、自社に最適のかたちでフリーアドレスを導入することもできるでしょう。あくまで、フリーアドレスは「目的」のための「手段」でしかありません。目的をどこに置くかにより、どのようにフリーアドレスを導入するのかは変わってきます。
そのため、フリーアドレス導入に向かないとされた場合でも、自社で取り入れたい働き方であれば、運用ルールや導入の方法を検討してみてください。必要に応じて、オフィスレイアウトのプロに相談することで、効果的な運用方法が見つかる可能性があるでしょう。
《フリーアドレス導入に向かない企業》
・紙ベースの書類が多く、かつデジタル化することが難しい企業
・業務にあたって利用する道具が多い企業
・機密情報を取り扱う企業
フリーアドレスの導入手順について
ここでは、フリーアドレスを成功させるための、効果的な導入の手順やノウハウをご紹介します。
また、見落としがちなフリーアドレスにおいて考慮すべき点についても、詳細に説明いたします。
1.フリーアドレス導入の目的を明確化する
最初に必要なことは、フリーアドレス導入の目的を明確に設定することです。
フリーアドレスを導入する目的は何でしょうか。目的を具体的に定義することで、求められる行動が見えてきます。
例えば、社内コミュニケーションを効率的に行いたい場合、会話しやすいレイアウトや、カフェスペースの併設も考慮に入れるべきでしょう。オフィススペースを最大限に活用したいなら、省スペースを叶えるデスクの配置が優先されます。
さらに、働き方改革の一環としてフリーアドレスを取り入れる場合、従業員のニーズや必要な設備を調査し、それに応じて環境を整備する必要があります。
目的によって、フリーアドレスの導入方法や運用が変わることを理解することが重要です。明確な目的設定は、皆様の会社が最適な働き方改革を実現する助けとなるのです。
2.フリーアドレス対象者を検討する
フリーアドレスを導入する際、必ずしも全従業員を対象にするべきとは限りません。
部署ごとに働き方が違う場合は、導入することが最適と思われる部署にのみ、フリーアドレスを適用することをおすすめします。
フリーアドレスの導入が最適かどうかを判断するために、一つの基準となるのは、座席の稼働率です。
例えば、外出の多い営業部や会議・ミーティングが多い部署については、離席する時間が多いため、フリーアドレスにすることでスペースの有効活用につながります。
その反面、コーポレート系の部署(総務、人事、経理など)については、紙媒体の書類や機密性の高い文書の取り扱いがあることを考慮すると、フリーアドレスには向かない可能性があるのです。
このような観点から、必要に応じて部署を絞り込み、誰をフリーアドレスの対象とするのかを検討することをおすすめします。
3.社員の状況を把握する
各部署で、誰がどのように働いているのか、全てを把握するのは容易ではありません。特に大企業になると、フリーアドレスの対象者や、用意すべき座席の数で悩むかもしれません。
そのような場合は、現在のオフィスの利用状況や、働き方についての意向など、アンケートを取ることで、社員の状況を把握しておくことをおすすめします。
・週当たりのオフィスの利用時間
・週当たりのオフィス外で働く時間(外出、リモートワークなど)
・必ず出勤する曜日と滞在時間
・リモートワークの併用を希望するか
上記のような情報を収集することで、誰が何時間オフィスを使っているのか、何曜日が混み合うのか、リモートワークとの併用は可能かなど、フリーアドレスの運用に関するさまざまなことが分かります。
フリーアドレスの導入を喜ぶ方もいれば、今まで固定席だったのに急にフリーアドレスになるのは、正直不安を感じるという従業員もいるはずです。そのような方へのフォローも含めて、社内の意見を聞くことは非常に重要といえます。
なお、調査項目はあくまでも一例です。会社の状況に応じて、必要な情報を収集し、そちらを参考にフリーアドレスの是非を検討してください。
4.フリーアドレスの座席数を決める
フリーアドレスの対象者が決まったら、必要な座席数を考えていきましょう。
まずは、対象者の在席率を把握する必要があります。例えば、営業部が約20名いるとしましょう。1日1時間毎に在席率を測定し、それを1ヶ月間行った結果、同時に席にいる人数は最大でも12名ということが分かりました。
この場合、最低でも12席、もしくは少しゆとりをもたせて15席の座席を設置すれば、全員が座席を確保できるでしょう。
このように、在席率に基づいて、フリーアドレス化する座席数を決めていきましょう。
5.運用ルールを決める
フリーアドレスの導入を成功させるには、どのような運用ルールにするかが重要です。
まずは、どの座席を使ってもよい「完全フリーアドレス」にするか、部署ごとにエリアを定めた「グループアドレス」にするかなど、大枠の仕組みを決めましょう。
続いて、社員が日々守るべきルールも決めておきましょう。具体的には、清掃ルールの設定、席の予約や私物の管理方法など、全員が納得する明確なルールを作成することが求められます。
これにより、トラブルを未然に防ぎ、フリーアドレスの導入をスムーズにすることができます。
ルールについて社員から意見が出た場合は、都度ルールを見直し、必要があれば積極的に取り入れていきましょう。
あるいは、各部署から代表社員を出し、社員参加型でルールを決めることで、働き方についての関心を高めるとともに、さまざまな会社の社員が守りやすいルールにすることもできるでしょう。
6.導入で必要になる備品を準備する
フリーアドレスを導入することで、机の上のスペースや机横のキャビネットがなくなります。
そのため、フリーアドレス導入に当たり、従業員の私物管理が課題となります。
以下のような設備やツールを準備しておくと、フリーアドレスへの移行がスムーズに進むでしょう。
- パーソナルロッカー
オフィスに設置する個人用のロッカーです。紙ベースの書類や、ノートPCなどを保管することができます。また、最近ではPC充電ができるコンセント付きロッカーや、郵便物の受け渡しができるようにメール穴が付いたタイプも登場しています。 - モバイルバッグ
フリーアドレスの場合、座席間の移動が発生するため、PCや充電器などをまとめるバッグがあると便利です。現在では、多種多様な色やデザインのものがオンライン上で購入できます。社員が各々で用意することが多いものの、利便性の高いモバイルバッグを会社から支給することで、フリーアドレス化による従業員の負担を軽減できるでしょう。
7.レイアウトを決める
フリーアドレスにするエリアのレイアウトも、成功のカギを握る要素です。
まず、フリーアドレスに適したデスクを導入しましょう。
一般的には、大型のデスクやロングデスクを複数人で使う仕組みが多く採用されています。あるいは、キャスター付きの稼働デスクや、連結することで座席を増やせるデスクを取り入れることで、人数の増減やレイアウト変更に対応しやすくなります。
また、作業用のオープンスペースだけでなく、集中したい方のための個室ブース、リラックスして会話できるソファスペースなど、いくつかの要素を組み合わせることで、より自由な働き方に近づくでしょう。
8.導入する前にテスト運用する
全社的にフリーアドレスを導入する前に、一部の部署やオフィスの一角で、フリーアドレスをテスト運用することをおすすめします。テスト運用の対象者には、一定期間はフリーアドレスで働いてもらい、感想や意見をヒアリングしましょう。
テスト運用の期間が短すぎると、参加者もよい点・悪い点が見えにくいため、1ヶ月ほどのまとまった期間で実施しましょう。また、座席の稼働状況や仕事の進捗など、数字で見えてくる成果も重要です。
テスト運用の結果、課題が見つかった場合は、ルールを再検討しましょう。
9.導入の目的とルールを社員に周知する
フリーアドレスの制度が整ったら、社員に制度の内容や、運用ルールを周知しましょう。
その際、「なぜフリーアドレスを導入するのか」といった目的もあわせて伝えることで、経営者と社員の目線を揃えやすくなります。
また、運用上のルールについても、マニュアルの作成や社内説明会の実施により、きちんと説明しておくことが大切です。
フリーアドレスの導入事例
多様な働き方が広がる現在、フリーアドレスを導入する企業は年々増えてきています。
1987年に「清水建設・技術研究所」でフリーアドレスが始まって以来、フリーアドレスについての研究が進められるなど、新しい働き方への注目が集まるようになりました。
当初は、なかなか本格的な実現には至らなかったフリーアドレス。しかし、快適で機能的なオフィスを表彰する「日経ニューオフィス賞」に、プライス・ウォーターハウス・コンサルタントのフリーアドレスオフィスが選ばれたのをきっかけに、フリーアドレスの浸透は加速します。
その後、ノートパソコンや携帯電話が普及した2000年代には、技術的な環境の変化も追い風となり、フリーアドレスの企業が珍しくなくなりました。
近年では、「カルビー株式会社」は、2009年からフリーアドレスの導入に取り組んでいます。その他にも、日本航空株式会社、キユーピー株式会社なども、フリーアドレスの成功例として知られています。
各企業は、「座席を固定化せずランダムに割り当てる」「ペーパーレス化でオフィスの無駄をなくす」など、生産性を向上させるためのさまざまな工夫を取り入れています。単にフリーアドレスを導入するだけでなく、企業が抱える課題に向き合い、よりよい職場環境を追求する必要があるでしょう。
フリーアドレス導入が失敗する理由
フリーアドレスを導入したからといって、どんな企業でもうまくいくとは限りません。
うまく仕組みを活用できず、かえって社員の満足度が下がったり、コミュニケーションを取りにくくなったりすることもあります。実は、一時的にフリーアドレスを導入しても、結局は固定席の仕組みに戻すという企業も少なくないのです。
新しいワークスタイルの導入を失敗に終わらせないために、ここでは、フリーアドレスがうまくいかない企業の特徴をご紹介します。
導入の目的を社内で共有できていない
「なぜフリーアドレスを導入するのか」という会社の方針が伝わっていないと、社員の不満が膨らむリスクにつながります。
例えば
- ・リモートワークを取り入れ、ワークライフバランスを向上させたい
- ・外勤社員が多いため、オフィスを有効活用したい
といった会社の方針があり、それを叶えるためにリモートワークを導入したとします。
このケースで、社員にもその目的が十分に浸透していれば、納得感のある制度変更となり、よりよくオフィスを活用しようという思いにもつながるでしょう。
しかし、急に働き方が変わり、その意図や目的も伝えられていない場合、社員の不満や疎外感が生まれるかもしれません。
「前のほうがよかった」「会社の方針が伝わってこない」といった理由から、社員の士気が下がっては本末転倒です。しっかりと制度変更の意味を伝えることで、社員も新しい環境を前向きに受け入れることができるでしょう。
向いていない部署にも
フリーアドレスを導入している
フリーアドレスを導入する際は、「対象者を誰にするか」という絞り込みが重要です。
例えば、外回りの社員が少なく、常にオフィスで仕事をしている社員が多い事務や総務の場合は、フリーアドレスにするメリットが少ないでしょう。
特に、社員の個人情報を扱うことの多い人事や経理の場合は、紙ベースの資料が必要な場合も多く、固定席に向いているかもしれません。
また、営業であっても、一日の大半をテレアポに使うような職種であれば、フリーアドレスには不向きでしょう。自由な座席で他部署の社員が作業しているのに、隣で電話をかけ続けるのは、お互いに落ち着かないものです。電話用のブースや、架電用の部屋を作るなど、ストレスなく業務に集中できる環境が求められます。
共用の作業スペースは人が集まったり、行き来したりする空間になるため、仕事内容によっては固定席や個室のほうが適しています。
周囲の音が気になる場合は「集中できる環境」、セキュリティ対策には「特定の部屋や固定席」など、部署ごとに必要な環境を考えるとよいでしょう。
席の管理システムが不十分
フリーアドレスを導入したことで、座席のトラブルが発生することもあります。
例えば、社員同士での「座席の取り合い」や、いつもチームで同じ場所を利用する「座席の固定化」など、フリーアドレスのメリットが活かされていない状況も起こり得るのです。
フリーアドレスをうまく運用するには、座席を管理するためのルールが必要です。座席数、予約の有無、座席の流動性を高める仕組みなど、必要に応じて制度を見直すとよいでしょう。
フリーアドレスの
成功のコツ
現代社会では、急速に進む企業の働き方改革で、フリーアドレス制度がより一層の存在感を示すようになりました。
ただ、この制度をただ「席を自由に選べるもの」と考えるならば、準備不足や適切でない運用で思わぬトラブルを招く可能性があります。
そうならないためにも、以下でご紹介する、成功するフリーアドレスのポイントを押さえておきましょう。
席が固定されないような仕組みを作る
フリーアドレスと決めているものの、結局数ヶ月経ってみると、毎回同じ人が同じ席に座っているなど、制度が形骸化してしまうことがあります。
結果として、コミュニケーションの活性化といった、フリーアドレスのメリットが活きてこないことも。そうならないためのルールを事前に考えておくことが重要です。
例えば、システム上でランダムに席を割り当てたり、定期的にグループアドレスのエリアをローテーションしたりすることで、より活動的なオフィスにすることができます。
ペーパーレス化を進める
フリーアドレス化の障壁となるのが、紙ベースの資料が多く、持ち歩きが大変なことです。しかし、近年は電帳法の影響もあり、オフィスのペーパーレス化が進んでいます。
「どうしても紙の資料が必要」という場合を除いては、電子化された資料を用い、紙を使う量を最低限に抑えましょう。
印刷やコピー用紙のコストを抑えられるとともに、オフィスの省スペース化にもつながります。
共用文具などの備品を完備する
フリーアドレスの座席では、個人の持ち物を減らし、身軽に移動できるような環境を作る必要があります。
ですから、クリアファイルやハサミ、セロテープやクリップなどの文房具は共用にして、一括で管理することをおすすめします。
ボールペンや付箋などの筆記用具も用意できると、社員はノートPCだけで来社できるため、私物を管理するストレスを減らすことができます。
ITツールを活用する
フリーアドレス制度では、ITツールの活用も必要不可欠です。
リモートワークと出社の併用など、自由な働き方を推奨する企業の場合、社員同士の連絡手段が課題となります。例えば、社内連絡用のチャットシステムがあれば、フリーアドレスで座席が離れていても、すぐに連絡を取ることができます。
また、オンライン会議システムなども活用し、さまざまな場所で議論できる仕組みを作りましょう。固定席に比べて、部署内のコミュニケーションが減ることがフリーアドレスの課題です。
週次や日次の定例会議など、対面かオンラインでこまめに顔を合わせる機会をもつとよいでしょう。
また、座席の管理にもITツールが役立ちます。座席を予約するシステムや、抽選で座席を決める仕組みによって、フリーアドレスの生産性が上がることもあるでしょう。また、システム上で使用中の座席を可視化することで、「誰がどこにいるか分からない」という課題の解消にもつながるでしょう。
集中できる環境を設ける
人によっては、「複数の人の中で作業するのが落ち着かない」という方もいるでしょう。また、作業内容やオフィスの状況によって、一人静かに集中したいというニーズも生まれる可能性があります。
そんなときに集中できる環境が用意されていると、フリーアドレスの生産性をさらに高められます。
例えば、個室・半個室のブースや、壁に面した人と目線が合わない座席を作るなど、レイアウトに工夫が必要です。
また、デスクの上にパーテーションを置くことで、電話や個人作業に集中できる、卓上の集中ブースも登場しています。こういった設備やツールを活用し、快適に作業できる環境を目指していきましょう。
定期的に運用を見直す
さまざまな制度と同様に、フリーアドレスの仕組みもまた、「一度導入したら終わり」ではありません。
社員がどのように制度を活用しているか、有効にオフィスを使えているかなど、常に観察する必要があるでしょう。 座席の稼働率や、デスクの清掃状況をモニタリングし、定期的に運用ルールを見直しましょう。
また、社員へヒアリングを実施し、意見や改善案があれば、ルールの変更を検討しましょう。フリーアドレスを運用している中で、デメリットと感じている箇所があればいつでも言いやすいように、定期的なヒアリングの場を設けることはとても重要です。
専門業者の力を借りる
ここまで、成功するフリーアドレスのポイントをご紹介してきました。
しかし、事業規模やオフィスの広さによっては、どうしても社員だけでの導入が難しいこともあります。どういったシステムを使うか、どのようなレイアウトにするかなど、課題が山積みになっているかもしれません。
そんなときは、専門業者に相談するのも一つの方法です。
フリーアドレス専門のコンサルティングや、フリーアドレスに適した家具の提案、座席管理システムの紹介など、オフィス改革を専門とするプロの力を借りることで、よりよいオフィスを実現できるでしょう。
業者に依頼する場合は費用が発生しますが、魅力的なオフィスの仕組みを構築できれば、費用対効果は大きなものとなります。事業計画や会社の方針を鑑み、必要な場合はプロのサポートを活用することも考慮に入れましょう。
フリーアドレスに
関するまとめ
本記事では、フリーアドレス制度の概要に始まり、メリット・デメリットや、フリーアドレスに向いている企業の特徴などをご紹介しました。また、フリーアドレスの導入事例や、フリーアドレスを成功させるために押さえておきたいポイントも解説しました。
フリーアドレスは、社内コミュニケーションの活性化や、自由な働き方の促進、座席の省スペース化など、さまざまなメリットにつながります。
長期的には、ペーパーレス化やオフィスの有効活用により、コスト削減にもつながるフリーアドレス。しかし、レイアウト変更にかかる費用や、ITツールなどの導入費用、制度変更にかかる社員の時間など、最初の導入時にはそれなりのコストがかかります。本当に必要な制度なのかを判断し、運用ルールなどを整備したうえで、失敗のない働き方改革を目指しましょう。
本記事で得た知識を、フリーアドレスの検討や、制度の導入、運用ルールの策定に役立てていただければ幸いです。
フリーアドレスに関する
よくある質問
座席数が足りないときの対策は?
人数分の座席が足りていないのであれば、座席数を増やすか、リモートワークの日数調整などが必要になります。あるいは、荷物による場所取りなどで座席が足りない場合は、上手に運用するためのルールの見直しが必要です。例えば、会議などで3時間以上席を空ける場合は、机の上を片付けて退席する「クリアデスク」をルール化するなど、座席を有効に活用する仕組みを検討してください。
フリーアドレスのオフィスでの感染症対策は?
同じ人が使う固定席のデスクに比べて、フリーアドレスのデスクでは、感染リスクが気になるかもしれません。使用前後のデスクのふき取りや、座席間のパーテーションの設置、定期的な換気の励行など、必要に応じてルールを決めて運用しましょう。