01 | A工事、B工事、C工事の違いとは
A工事、B工事、C工事の違いとは?
工事区分の違いを徹底解説作成日:2024.3.12更新日:
A工事、B工事、C工事とは、不動産業界や建築業界でよく使われる専門用語です。
A工事、B工事、C工事といった工事区分は、「誰が業者を指定するか」「誰が費用を負担するか」「誰が工事を発注するか」といった、責任の所在を明らかにします。この記事で、A工事、B工事、C工事の違いから、それぞれの特徴と注意点、工事費用を抑えるポイントまで、しっかと確認しておきましょう。
A工事、B工事、C工事の違いとは
A工事、B工事、C工事とは、「誰が業者を指定するか」「誰が費用を負担するか」「誰が工事を発注するか」についての工事の区分です。 A工事を「甲工事」、B工事を「乙工事」、C工事を「丙工事」と呼ぶこともあります。
- ・A工事 : 貸主
- ・B工事 : 貸主
- ・C工事 : 借主
<業者を指定する人>
- ・A工事 : 貸主
- ・B工事 : 借主
- ・C工事 : 借主
<費用を負担する人>
- ・A工事:貸主
- ・B工事:借主
- ・C工事:借主
<工事を発注する人>
なぜ、このような区分があるかというと、ビルなどの物件には「共用部分」と「専有部分」があり、貸主と借主のどちらがどの部分に責任を持つかを決める必要があるからです。
大型ビルやオフィスビルの契約書には、誰が費用を負担し、誰が業者を指定するのかといった、工事区分が示されています。契約書の内容に沿って、業者選びや費用負担を行います。
なお、「誰が工事を発注するか」については、必ずしも決められているわけではありません。「誰が業者を指定するか」と「誰が費用を負担するか」だけが定められていることもあります。
A工事について
- ・業者指定:貸主
- ・費用負担:貸主
- ・工事発注:貸主
<A工事>
A工事は、業者指定から費用負担、工事の発注まで、全て貸主に責任がある工事のことです。
対象範囲はどこまで
A工事の対象となるのは、建物の躯体(くたい)や共用部分です。例えば、建物の外装や外壁、共用トイレ、エレベーターなどの共用部分の工事は、A工事にあたります。 借主側の専有部分ではないため、原則として、借主が費用を負担する必要はありません。トイレの故障など、共有部分で気になる点があれば、貸主にA工事としての修繕をお願いすることができます。
A工事の注意点
A工事の対象となるような共用部分は、本来、貸主が責任をもって修繕やメンテナンスにあたります。
しかし、契約によっては、A工事となるべき領域が借主に請求されることもあります。借主が賃貸借契約に詳しくない場合、排水設備や柱の修繕などA工事となるはずの費用でも、言われたとおりに支払ってしまうかもしれません。
契約書に記載の工事区分をよく確認し、借主に不利な条件となっていないかを確認しておきましょう。
なお、借主の過失で共用部分を破損してしまった場合は例外で、原則として借主が修理の責任を負わなくてはいけません。
対象となる主な工事例
A工事の具体例には、以下のようなものがあります。
・ビルの外装、外壁
・屋上
・共用トイレ
・エレベーター
・階段
・共用部の空調設備
・共用部の消防設備
・共用部の給排水設備
その他、特定の借主だけが使うものではなく、ビル全体の共用として使われる設備や空間は、原則としてA工事に分類されます。
B工事について
- ・業者指定:貸主
- ・費用負担:借主
- ・工事発注:借主
<B工事>
B工事は、業者指定のみ貸主が行い、費用の負担や工事の発注は、借主の指定となるような工事です。
対象範囲はどこまで
B工事の対象となるのは、借主の専有部分にありながら、建物全体に影響を及ぼすような設備です。
例えば、貸室内の空調設備、防災設備などがこれにあたります。
なぜ、貸主側で業者を指定するのでしょうか? それは、借主側に業者まで任せてしまうと、信頼できない業者が工事に当たった場合、建物全体の衛生環境や安全性に関わるためです。
空調設備は、法律で定められた衛生的な空気基準を保つために必要な設備です。あるいは、万が一火災が起きたときのために、十全な防災設備を備えておく必要があります。
ですから、借主の専有部分に位置していても、建物の衛生環境や安全性に関わる部分については、貸主が業者を指定して工事を行うのです。
B工事の注意点
A工事、B工事、C工事の中で、最もトラブルが起きやすいのがB工事。貸主が業者を指定するにもかかわらず、費用を負担するのは借主になるため、借主がB工事の区分を十分に理解していなかった場合、「寝耳に水」ともいうべき費用が発生することがあるのです。
B工事では、借主側が業者を選べないため、費用が高くなりやすいという特徴があります。原則として、業者を変更してもらうことはできないため、想定以上の金額がかかることもあるでしょう。
契約前に、工事区分表を確認し、B工事の範囲を理解しておきましょう。また、B工事の見積もりを取得し、金額に納得してから契約を結ぶのも有効な手段です。
対象となる主な工事例
B工事の具体例には、以下のようなものがあります。
・分電盤
・専有部分の空調設備
・専有部分の防災設備
・専有部分の電気設備
・専有部分の給排水設備
・専有部分の吸排気設備
借主の専有部分であったとしても、 衛生環境や安全性など、ビル全体に影響を及ぼすような工事は、B工事になる可能性が高いでしょう。
B工事が必要になるケース
今まで、賃貸住宅や小規模のビルを借りてきたという方であれば、「B工事に出会わなかった」ということもあるでしょう。
B工事は、全ての賃貸借契約で決められているわけではありません。特に、 大型ビルや新築ビル、商業施設などで、このB工事の区分が登場するのです。
大型ビルの中でも「スーパーグレードビル」と呼ばれるような、大規模で高品質なビルになると、B工事の費用もかなり高額になります。自分で業者に依頼する場合と比べると、相場の2~3倍の金額がかかることも。契約を締結する前に、B工事の有無を確認し、想定される費用の見積もりを取得しておくと安心です。
C工事について
- ・業者指定:借主
- ・費用負担:借主
- ・工事発注:借主
<C工事>
C工事とは、業者指定から費用負担、工事の発注まで、全て借主に責任がある工事です。
対象範囲はどこまで
C工事の対象となるのは、いわゆる「改装工事」と呼ばれるような、借主内で完結する工事です。
例えば、インターネットや電話回線の工事、扉や間仕切り等の増設や、壁紙の変更など、借主を使いやすく魅力的にするような工事です。 こういった工事は、借主側で業者を選定し、費用を負担することになります。
C工事の注意点
C工事を行ううえで、最も大切なことは、まず工事区分表を確認することです。
ご自身ではC工事に当たると思った工事でも、契約内容によっては、B工事に分類されていることもあります。B工事であれば、業者の指定の権限は貸主にあるため、勝手に業者を選ぶことはできません。
また、C工事に該当する場合でも、工事の音や振動、エレベーターの占拠などが、管理会社やほかの借主とのトラブルに発展することもあります。 工事業者を呼ぶ場合は、必ず貸主に工事内容を伝え、承認を得たうえで工事を進めるとよいでしょう。
なお、C工事を施した部分は、退去時には原状回復する必要があります。原状回復にかかる費用も考慮したうえで、C工事の必要性を検討してください。
対象となる主な工事例
C工事の具体例には、以下のようなものがあります。
・インターネットの開通
・電話回線の敷設
・照明器具の設置
・ロゴの設置や壁紙の変更
・間仕切りや壁の増設
なお、間仕切りや壁の増設、背の高い家具の設置により、スプリンクラーや空調設備の移動が必要になる場合もあります。 こういった場合は、防災設備や空調設備については、別途、B工事が必要になる可能性があります。B工事は費用が高くなりやすいので、できるだけ防災設備や空調設備に影響を与えないようなレイアウトを考えることをおすすめします。
C工事の流れ
A工事、B工事では、業者の指定は貸主が行います。一方で、C工事の場合は、業者の選定から発注、支払いまで、全て借主が行う必要があります。
ここでは、おおまかなC工事の流れをご紹介します。
1.貸室内のレイアウトや内装を決める
2.工事区分表を確認する
3.C工事を依頼する業者を決める
4.貸主に工事の許可を得る
5.工事業者に発注する
まず、C工事を行う貸室内のレイアウトや内装を決めましょう。原状回復の費用も鑑みて、費用対効果の高いレイアウトを選びたいところです。
次に、工事区分表を確認して、B工事に分類される工事が含まれていないかを確認します。C工事の影響により、B工事を行う必要がある場合は、貸主に伝えてB工事を行いましょう。
C工事に分類される工事であれば、ご自身で依頼する業者を決められます。複数の業者から相見積もりを出してもらい、費用だけでなく、実績や信頼度も勘案しながら業者を選定するとよいでしょう。
依頼する業者や日取りが決まってきたら、貸主にも工事内容を相談し、承諾を得てから作業に移りましょう。必要に応じて、ビルに「作業届」や「搬入届・搬出届」を提出してください。
貸主の許可が下り、スケジュールや費用感にも問題がないことを確認してから、正式に工事を発注してください。発注後のトラブルを避けるために、工事区分や工事の日取りなど、関係各所に相談しながら確認しておくことが大切です。
B工事、C工事の費用を抑えるポイント
A工事の費用は貸主が負担しますが、B工事とC工事の費用は、借主が支払わなくてはなりません。
入居時や退去時にかかるコストは、できるだけ抑えられるに越したことはありません。ここでは、工事費用を抑えるためのポイントを3点ご紹介します。
貸主と交渉する
工事費用を抑えるために、貸主と交渉するタイミングは「契約前」がおすすめです。賃貸借契約を結ぶ前であれば、交渉を受け入れてもらえる可能性が上がるほか、B工事の金額に納得がいかなければ、契約を見送ることもできます。
代表的な交渉のポイントは、契約書に記載されている工事区分を変更してもらうことです。例えば、B工事として区分されている工事を、A工事またはC工事に切り替えてもらうことができれば、大幅に費用を削減できます。
空調設備や防災設備などをA工事に含めてもらえれば、初期設備にかかる費用はぐっと下がります。また、B工事とC工事の違いは、ご自身で業者を選定できるか否かです。C工事になると、B工事の1/2~1/3程度まで費用を抑えられることもあります。
ただし、契約締結後、入居してからの工事区分の変更は、なかなか受け入れてもらえないもの。契約を結ぶ前に、工事区分をよく確認し、必要に応じて貸主に交渉しておきましょう。
相見積もりを取る
C工事は唯一、借主側の判断で業者を決められる工事です。
C工事を依頼する業者を選ぶ際は、複数の業者に見積もりを出してもらい、費用や見積もりの内容を比較検討することをおすすめします。いわゆる「相見積もり」です。
相見積もりを取ることで、費用の相場がわかりやすくなるほか、各社の提案内容を比べることができます。工事の仕上がりや耐久性、費用の規模を左右する工事業者選び。しっかりと比較検討のうえで、信頼できる業者を選びましょう。
見積もりの金額は、「低ければ低いほどよい」というわけではありません。工事の実績や、提案内容など、質の面でもよく条件を比較してから、依頼する業者を決めてください。
専門家に相談する
B工事の指定業者から見積もりが出てきたときに、あまりにも相場と乖離している場合は、減額交渉ができる場合があります。
減額交渉をする際、相見積もりの結果を交渉の材料にすることもできます。しかし、指定業者と相見積もりを取った業者で、工事の内容が違う場合は、比較の対象にならないかもしれません。
そこで候補に挙がるのは、専門家に相談することです。工事費用の減額サポートやコンサルティング専門の会社に、B工事の費用が高すぎないか相談することで、専門家の目線から減額の根拠を提示してくれます。
ただし、専門家に減額相談をする際は、その会社に支払う費用が発生します。減額された分の工事費用よりも、専門家に支払う金額のほうが高くなってしまうと、専門家に相談した意味がありません。想定される減額の規模によって、専門家に介入してもらうかを検討するとよいでしょう。
A工事、B工事、C工事に
関するまとめ
ここまで、A工事、B工事、C工事という工事区分の違いを解説してきました。
A工事、B工事、C工事には、「誰が業者を指定するか」「誰が費用を負担するか」「誰が工事を発注するか」といったポイントで違いがあります。
借主が費用を負担するのは、B工事とC工事です。なお、A工事の費用は貸主が支払うとはいえ、間接的には、借主が支払った賃料が充てられる可能性が高いです。A工事の内容が妥当かどうかは、入居するうえで考えておきたいものです。
A工事、B工事、C工事といった用語は、法律で具体的に定められているわけではありません。しかし、賃貸契約書で工事区分が明記されており、その区分が法的に妥当なものであれば、十分に法的な効力を持つルールです。しっかりと仕組みを理解し、この記事で得た知識を入退去時の工事でお役立ていただければと思います。
A工事、B工事、C工事に関する
よくある質問
A工事、B工事、C工事の区分はどの物件でも同じですか?
工事区分は、物件によって異なります。つまり、契約内容によって、それぞれの工事区分に分類される工事の内容も変わるのです。交渉次第で、「B工事をC工事扱いにしてもらう」といった対応が可能なこともあるので、契約前に工事区分表を確認してみてください。
退去時の工事区分は?
建物から退去する際の原状回復にも、A工事、B工事、C工事の工事区分が関わってきます。例えば、天井設備やスプリンクラーなど、ビル全体に関わるような原状回復が必要な場合は、原状回復もB工事に分類されるかもしれません。原状回復のルールも契約書に記載されていますので、契約締結前に確認しておくとよいでしょう。