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居抜き物件のメリットとデメリット|契約時の注意点を徹底解説

作成日:2024.5.9更新日:2024.11.05

居抜きとは、建物を賃貸や売却する際に、調度品や設備、商品などを残したままにすることです。

開業や出店をお考えの方の中には、居抜き物件を検討している方もいることでしょう。この記事では、居抜き物件の概要に始まり、契約の流れやメリット・デメリットを詳しく解説します。

そもそも居抜き物件とは?

「居抜き物件」とは、内装や造作、設備などが用意されている状態で賃貸できる物件のことです。

特に飲食店など、厨房や内装をそのまま使いたいというテナントであれば、こういった居抜き物件は人気が高いです。中には、レジスターや電話、食券販売機や調理器具、食器まで、前テナントの備品を譲り受けられることもあります。

どれだけ内装や設備が残されているかは、物件によって異なります。すぐに使えるというわけではなく、内装や設備の一部のみが残されていて、ある程度の改装が必要な居抜き物件もあります。

居抜き物件には、さまざまな種類がありますが、特に多いのは飲食店の店舗です。ラーメン屋が退去したのちに、同じ場所にラーメン屋ができることがあるのは、居抜き物件でカウンターや調理設備を残している可能性が高いです。そのほか、クリニックやエステサロン、旅館や工場など、居抜き物件の種類は多岐にわたります。

居抜き物件の対義語は「スケルトン物件」です。不動産をコンクリートの打ちっ放しの状態(スケルトン状態)に戻してから、次のテナントに受け渡します。

業者調査

居抜き物件の「造作料」とは

居抜き物件は、設備や備品が付いてくるため、テナントにとってはコストが抑えられてうれしい側面があるでしょう。しかし、必ずしも無料で付いてくるわけではないので、注意が必要です。

居抜き物件の中に残されている内装や設備の料金には、以下の3種類があります。

  • ・無償貸与:無料で内装や設備を借りられる。退去時には貸主に返却する。
  • ・リース:有償で内装や設備を借りられる。退去時にはリース会社に返却する。
  • ・買取:造作料を支払い、有償で内装や設備を買い取る。
  • このうち、「リース」あるいは「買取」の場合は、内装や設備、備品を使うための使用料が発生します。買取の金額は、「造作料」や「造作譲渡料」と呼ばれます。造作料は、専門家の査定や、旧オーナーと新オーナーの交渉によって決められます。

    居抜き物件の契約の種類

    居抜きで物件を借りる際、契約書の種類は2種類あります。

    まずは、居抜き店舗を借りるための「賃貸借契約書」。これは、通常の賃貸の際に交わす契約と同じです。

    次に、造作料を支払って、有償で備品や設備を買い取る場合は「造作譲渡契約書」も必要です。物件のオーナーではなく、前に入居していたテナントと取り交わす契約です。居抜き物件に残っている内装や設備を「造作」といいますが、この造作を譲り受けるという契約です。

    造作譲渡契約では、譲渡する造作の内容、金額、支払い期限、修理や原状回復の義務などが取り決められます。認識の齟齬を防ぐために、「譲渡項目書」を作成し、譲渡する設備や備品を明確にしておきましょう。

    居抜き物件の契約までの流れ

    居抜き入居で開業するまでの、契約の流れをご紹介します。

  • ① 物件探し
  • ② 内見、申し込み
  • ③ 入居審査
  • ④ 賃貸借契約と造作譲渡契約
  • ⑤ 引渡し
  • まず、①~③までは、通常の店舗やオフィス、マンションなどの賃貸物件と同じです。しかし、内見の際は、居抜きだからこそチェックが必要なポイントがあります。

    それは、譲り受ける内装や設備の確認です。問題なく活用できる店舗なのか、内装の清潔感や、設備の種類、グレードなどを細かく確認しましょう。

    また、インフラ設備の容量も確認しましょう。特に飲食店の場合は、厨房機器などを稼働させるために必要な電気・動力や、十分なガス、水道の容量が必要になります。これらの引き上げ工事は、かなりの高額になることもあるため、追加工事の費用を見積もっておくことをおすすめします。

    さらに、追加で内装工事や設備工事をする場合は、退去時に原状回復しなくてはならないことがあるので、その点もオーナーと確認しておきましょう。

    ④の契約では、通常の賃貸借契約に加えて、造作を買い取る場合は「造作譲渡契約」が必要になります。契約条件が整えば、晴れて物件の引き渡しと入居に進みます。

    居抜き物件のメリット

    居抜き物件の代表的なメリットは、以下の2つです。

    初期費用を削減できる

    開業までの期間が短縮できる

    メリット

    初期費用を削減できる

    居抜き物件の大きな魅力は、初期費用を削減できることです。既存の内装や設備が物件に付属しているため、新たに装飾や設備の設置にかかる費用を大きく節約できます。

    スケルトン状態の貸店舗で開業する場合は、内装の選定や工事、インフラの導入、什器や設備の購入と工事など、時間的にも金銭的にもコストがかかります。しかし、居抜きの店舗であれば、店舗設計や内装工事、設備・備品の購入が必要ないため、大きく費用を抑えられます。

    もちろん、既存の設備をリースや買取で使う場合は、出費はゼロではありません。しかし、一から店舗を整える初期費用と比べると、ぐっと金額を下げることができるでしょう。また、無償貸与で備品や内装を利用できる物件なら、譲渡料なしで居抜き入居できることもあります。

    開業までの期間が短縮できる

    居抜き物件では、内装や設備がある程度揃っています。入居時の工事は、追加で工事が必要な部分だけでよいため、短い工事期間でスピーディーな開業が可能になります。

    通常は、内装工事や設備工事の期間中も賃料が発生します。つまり、工事期間が短いということは、開業までの賃料負担を抑えられるという、資金面でのメリットにもなります。「初期費用を抑えて、早く開業したい」という方には、居抜き物件は魅力的な選択肢となるでしょう。

    居抜き物件のデメリット

    一方で、居抜き物件には以下のようなデメリットもあります。

    レイアウトが思った通りにできない

    前のテナントのイメージが残っている

    設備が経年劣化している場合がある

    デメリット

    レイアウトが思った通りにできない

    前のテナントの内装や設備を、お得に譲り受けることができるのが、居抜き物件の魅力です。しかし、内装がイメージに合わなかったり、設備の性能が理想とは違ったりすることも。また、エントランスから客席、厨房までの動線など、機能性も高いレイアウトになっているか注意が必要です。

    最も自由度が高いのは、スケルトンの物件で一から店舗を設計すること。費用はかかりますが、思い通りのレイアウトが可能になります。居抜き物件を借りる場合は、見た目だけでなく、機能性やオペレーションの面でも、求めている店舗の条件を満たしているかを確認しておきましょう。

    前のテナントのイメージが残っている

    新しく店舗を構えるオーナーとしては、近隣住民からの人気をいち早く獲得したいところです。

    しかし、前のテナントのイメージが強く残る物件であれば、マイナスのイメージから始まってしまうこともあります。 特徴的な形状の店舗であれば、多少のリフォームを加えて、イメージを刷新するのもよいでしょう。

    また、居抜き物件の募集が出ているということは、前のテナントが何らかの理由で閉店したという意味でもあります。

    例えば、ラーメン屋が退去したあとの居抜き物件であれば、もしかするとラーメン屋の需要が少ないエリアなのかもしれません。立地や近隣住民のニーズなど、物件の商圏をしっかりと調査しておきましょう。

    設備が経年劣化している場合がある

    初期費用を抑えられるのがうれしい居抜き物件。しかし、譲り受ける内装や設備は、新品ではありません。旧テナントが使っていた中古品となるため、必ず状態や動作をよく確認しておきましょう。

    特にチェックしたいのは、以下のようなポイントです。

    厨房機器やエアコンは正常に動作するか

    排気ダクト内の汚れや油塵の量

    内装の汚れや破損

    電気配線は劣化していないか

    設備や備品が老朽化している場合は、修理や交換で予想外の費用がかかるかもしれません。また、買い替えの際は、新たに設備を購入する費用だけではなく、古い設備の処分費用も発生します。

    初期費用を抑えるだけでなく、ランニングコストも抑えて長く使える店舗かどうか、内見の際によく確認しましょう。

    居抜き物件を賃貸する際の契約上の注意点

    居抜き物件として物件を退去する場合は、内装や設備を撤去せず、次の入居者に引き渡すことができます。そのため、原状回復の費用がかからないばかりか、次の入居者からの造作譲渡料を得られる場合もあるのです。

    では、居抜き物件に入居した新しいテナントも、退去時の原状回復の必要はないのでしょうか。

    実は、居抜き物件に入居すると、原則として退去時の原状回復義務が発生します。居抜きの状態ではなく、スケルトン状態まで戻さなくてはいけないのです。

    例えば、前賃借人が施した内装工事・外装工事であっても、それを引き継いだテナントが原状回復することになります。そのため、「初期費用は安いのに、退去費用が高くなった」というケースも。契約前に、専門の業者を介して十分な調査を行い、退去にかかる費用まで見込んでおくとよいでしょう。

    なお、賃貸人が「次も居抜きで貸したい」ということで、居抜きでの退去に承諾した場合は、原状回復の必要はなくなります。

    ビジネスマンによる確認

    居抜き物件の不動産を選ぶときのポイント

    居抜き物件の不動産選びで失敗しないために、内見時にチェックしておくべきポイントをご紹介します。

    立地

    前のテナントの退去理由

    残されている設備機器や什器の内容

    エアコンや設備の動作確認

    機能性や動線の確認

    外装や内装の雰囲気、コンディション

    原状回復の義務

    物件を選ぶうえで一番重要なのは、交通量や階数、周辺環境といった「立地」です。

    特に居抜き物件の場合は、社内用のオフィスではなく、飲食店やクリニックなど、集客が必要な店舗が多いことでしょう。駅からのアクセスや、人通りの多さなどが、売り上げに直結します。

    競合店の有無や近隣住民のニーズなど、立地条件をしっかりと押さえて物件を選んでください。前のテナントの退去理由も、どれだけニーズのある立地なのかを判断する材料となります。

    また、居抜き物件ならではの、譲り受ける内装や設備の状態確認も大切です。問題なく使うことができるか、レイアウトの動線に不便はないか、外装や内装は清潔かなど、コンディションや機能性を確かめておかなくてはなりません。設備が買取になるのか、リースになるのかといった譲渡の条件も、事前に確認しましょう。

    そして、トラブルになりやすいのが原状回復です。居抜き物件とはいえ、退去時にはスケルトン状態までの原状回復が必要になることも。どの範囲まで原状回復を求められるか、内見の際に確認してみてください。

    チェック

    カフェやバー(飲食店)の
    居抜き物件を選ぶ際の注意点

    特に多いのは、カフェやバーなど、飲食店の居抜き物件を賃貸するケースです。カウンターや調理機器など、必要な設備が揃っている居抜き物件は、新しく飲食店を開業したい方の心強い味方です。

    しかし、飲食店の居抜き物件を選ぶ際は、居抜き特有の注意点もあります。候補の物件を内見する際は、以下のような点もチェックしてみてください。

    インフラの容量の確認

    物件の階層

    深夜営業は可能か

    換気、排気設備の状態

    害虫、害獣はいないか

    まず、電気、ガス、水道などのインフラが、必要な容量を満たしているかどうかも、事前に調査・確認しておきましょう。水やガスを多く使う飲食店では、インフラの容量が足りないと、追加工事が必要になります。

    また、物件の階層も、飲食店の集客を考えるうえでは重要なポイントです。基本的には、2階や地下よりも、1階の通りに面した店舗のほうが集客面では有利になります。

    バーやスナックなど、午前0時以降の深夜営業を予定している場合は、深夜営業が可能な物件か確認しましょう。立地や設備面の基準を満たしていないと、公安委員会の許可が下りない可能性があります。

    そして、店内の安全性や清潔さに関わるのが、換気、排気設備の状態です。例えば、排気ダクトの中に油塵が堆積していると、火災の原因になることも。必要に応じて、修繕や清掃をする必要がありますので、こちらも事前に確認しましょう。

    虫やネズミなどの害虫・害獣も、飲食店を経営する方の悩みの種です。完全に防ぐことは難しくても、害虫や害獣の発生しにくい物件を選びましょう。外壁に隙間や穴がないか、排水管やグリストラップは清潔に掃除されているかなどを確認し、事前に対策しておきましょう。

    開業には保健所、消防署、警察署の許可が必要

    飲食店を営業するためには、保健所、消防署の許可が必要になります。また、深夜営業には警察署でも許可を取る必要があります。

    これらの許可を得るためには、消火設備や警報設備、シンクや手洗い場、照明の明るさなど、内装の基準を満たさなくてはいけません。

    居抜き物件であれば、すでに基準を満たす内装になっている可能性もあります。しかし、改装などで手洗い場や仕切りの場所が変わっている場合は、定められた基準を満たす状態まで、改めて内装を整えなくてはいけません。

    営業許可は、店のオーナーが責任をもって取得する必要があります。営業許可を取得するために、改装工事費がかかる可能性もあるので、そのような観点からも内装の状態を確認しておきましょう。

    居抜き物件を
    売却するときの流れ

    自己所有の居抜き物件は、賃貸だけでなく、売却することもできます。

    居抜きで物件を売却すると、既存の設備の処分費用や解体費用が発生しないほか、設備を含めることで高く売れる可能性があります。また、解体工事の必要がないので、引き渡しの直前まで営業を続けられるのもメリットです。

    居抜き物件を売却するときの流れは、以下のようになります。

    ① 不動産会社の査定を受ける

    ② 不動産会社と媒介契約を結ぶ

    ③ 買契約の成立

    ④ 物件の引渡し

    自己所有の物件を売却する場合は、居抜き物件だからといって、通常の売却と大きな違いはありません。設備等を含んだ金額で、購入者との合意が取れれば、売買契約の成立です。買い手が見つからない場合は、物件の買取業者を利用してもよいでしょう。

    フロー

    入居者が次のテナントに造作を
    売却するときの流れ

    自己所有の物件ではなく、物件を賃貸している借主が、テナント内の内装や設備を売却したいと思うこともあるでしょう。

    つまり、借主の側から、居抜き物件としての退去を希望する場合です。このような場合は、勝手にテナント内の造作を、次のテナントに売却することはできません。あくまでも物件のオーナーは貸主なので、貸主の許可を得る必要があります。

    ① 貸主に居抜きで退去したいことを申し出る

    ② 貸主の許可を得る

    ③ 新しいテナントを探す

    ④ 造作譲渡契約を結ぶ

    ⑤ 物件の引渡し

    居抜きで賃貸物件を退去したい場合は、まずは貸主の許可を得ることが重要です。新しいテナントは、基本的には貸主や管理会社側で探すので、借主側ですべきことはありません。しかし、次のテナントが決まらないと、造作を譲渡することもできなくなってしまうので、余裕を持って解約通知をするとよいでしょう。

    また、居抜きで退去したい方をサポートする、居抜き売却業者も存在します。費用はかかりますが、貸主との交渉にも介入してくれる場合もあるので、不安な場合は専門業者に相談してみましょう。

    居抜き物件に
    関するまとめ

    この記事では、「居抜き物件」の言葉の意味に始まり、メリット・デメリットや選び方の注意点など、居抜き物件で知っておくべきことを詳しくご紹介しました。

    デザイン設計や内装工事、設備機器の購入など、内装工事費用の坪単価を抑えられる居抜き物件。ビルの一室などのテナントが居抜きになることもあれば、一軒家を丸ごと居抜きで借りられることもあり、その形態はさまざまです。

    特に居抜き物件が多いのは、飲食業界です。ケーキ屋やパン屋であれば大きなオーブン、ラーメン屋であれば茹で麺機、焼き肉屋であればロースターやダクトなど、業種特有の設備を一から揃えるとなると、かなりの費用がかかります。その点、居抜き物件であれば、一通りの設備が揃った店舗で営業を始められるでしょう。

    この記事を参考に、「居抜き物件」という不動産の仕組みを、店舗経営で上手にご活用ください。

    居抜き物件に関する
    よくある質問

    クエスチョンマーク居抜き物件では、家賃のほかにどのような費用がかかりますか?

    アンサーマーク前のテナントから、設備や内装などを買い取る場合は、造作譲渡料の支払いが必要になります。また、追加で改装工事や設備工事を行う場合も、初期費用が発生します。

    クエスチョンマーク居抜き物件なら、飲食店の営業許可を取るのは簡単ですか?

    アンサーマーク以前も飲食店として営業していた物件であれば、洗浄設備や仕切りなど、保健所の基準を満たすレイアウトになっていることが多いです。しかし、必ずしも営業許可を取れる状態とは限りませんので、内見の際に確認しておきましょう。